素人研究について
かって古書店巡りをしていた頃、何人かの素人研究家に出会った。軍歌の研究や、外国語辞書研究、あるいは紫式部の住所を特定する研究など、その全貌はよく分からないのだけど、彼らの話を聞くのは楽しかった。その目的は様々で、完全に個人的な楽しみの人もいれば、自分の研究に多少の自負と色気もあって世間に発表したいという人もいる。
ぶっちゃけた話をすると、50-100万程度の資金を用意し、上手く研究の対象を選び、時間さえかければ、誰もがなにかを発見することは出来る。プロが研究しないことを対象にすれば、そういうことは出来てしまうのである。
ところが素人の研究を発表し、認めてもらうというのはかなり難しい。外国語辞書を研究していた人は、とにかく外国語辞書を集める事が目的だった。選り好みしないという条件が付くけれど、古書店で売られている外国語辞書は安い場合が多い。ひたすら数を集めるのであれば、安価に楽しむことができる。外国語辞書研究をしている人は十分に満足してたのだから、それはそれで崇高な行為だ。
ただしできれば自分の研究を発表し、認めてもらいたいという人が、彼の真似をしてしまうと、悲惨な結果になってしまうだろう。
私も素人研究家の一員で、なるべくならば研究の成果を発表したいと思っている。様々な幸運が重なって、今はたまたま研究の成果を発表することができているので、自分の経験からなるべく認めてもらいやすい方法というのを書いておこうと思う。
自分は玄人ではない
始めに必要なのが、自分は玄人ではないという事を認識することだ。
素人は玄人と比べると、触れることが出来る資料が限られる。論文へのアクセスもそうだし、学会や研究会に参加するのも難しい。
発表の方法についても同じで、私は掲載料を払ってまで、論文をなにかの媒体に掲載してもらう気にはならない。なぜなら素人であるのだから、掲載されたところで特別なメリットがないからだ。それはそういう場所で活動しているからこそ、得られるメリットであって、部外者には関係がない。プロの雰囲気を感じられることが好きな人なら、メリットはあるのだろうけど、プロでもないのにプロの方法を真似する意味はない。
素人が有利な点というのは、プロとは違う方法で研究することが出来るということだ。研究の対象も自由に選ぶことができる。
ところがプロと違う方法で違う事柄を研究するためには、玄人の方法を学ばなくてはならない。効果的にルールを破るためには、ルールを知ることが重要なのである。
玄人研究の方法
研究の入門書として、私がお勧めするのは下記の本だ。
論文作法―調査・研究・執筆の技術と手順 (教養諸学シリーズ)
これは学生向きに書かれたガイドブックだから、プロの方法というわけではない。しかし論文の書き方や情報のまとめ方など、かなり分りやすく書かれている。
もっとも私がこれを読んだのは十年も昔の話だ。今はもっと良い本が出ているもしれないが、とにかく基本的な方法は押えておく必要がある。
いくらコレクションを集めたとしても、整理が伴っていなければ役には立たない。自分しか知らないことがあったとしても、一定のルールに従って書かなくては、人に認めてはもらえない。
トリッキーな方法で発表をするにしても、基本を知っていればこそである。
プロが研究している分野を知っておく
プロが研究している分野を知っておくことも大切だ。研究の成果があるのであれば、そこから学んでしまえば効率的だ。
誰も知らないことを発見し、多少なりとも有益な研究にしたいのであれば、プロと同じ場所を調べるのは避けたほうが良いだろう。素人は様々な部分で不利なのだから、プロと同じ場所を同じような手法で調べたところで勝目はない。手付かずの分野を探し出すためには、研究されている分野を知る必要がある。
他の分野を研究しておくこと
自分の研究する分野にこだわらず、様々な分野の研究方法を調べておくことも大切だ。
ルポルタージュを書く (同時代ライブラリー)
この本はルポルタージュの書き方で、研究という点ではあまり役に立たないが、研究成果を出力する方法を学ぶには役に立つかもしれない。
全く異なる分野の調査方法を学ぶというのは、かなり参考になる。学問の分野によって、研究の進め方や方法も違う。重要なのは考え方を知るということで、だいたいの概要を知っておくだけで良いだろう。私は統計学についてはほとんど知らないが、薄ぼんやりと知っている部分もあるため、自分が出した数字や判断があまり客観的なものではないなと理解することは出来る。自分の出した結果が、曖昧なものだと理解することが出来て、疑うことができるようになれるのだから、統計学の書籍を一冊読んだ価値はあるのだろう。
またある程度まで、パソコンを使えるようになっておく。私は検索しながら10行そこそこの汚いスクリプトを書く程度の技術力しかないが、知らない頃よりかなり効率的に書くことが出来ている。基本的に一人で研究するのだから、雑多なことはパソコンにやらせてしまうのが正解だろう。
研究の結果を予想するために
ひたすら調べ続けたものの、どう出力してよいのか分からず、失敗してしまうのはなるべくならば避けたい。
というわけで他人が研究した結果、出力した論文や書籍を読んでおく。
こうすることで、自分の研究の完成した姿を想像することができる。どのような結果を出したいのか想像しておけば、どのような資料を集め、どのような手法で整理しておくのが効率的か、自から見えてくるだろう。
出力先を確保しておくこと
発表する場所は、自分で用意してしまうのがお勧めだ。なぜなら出力先を用意しておいたほうが、確実に飽きにくいからだ。また人に見てもらうことによって、自分の今の水準がある程度まで客観視できるというメリットもある。場合によっては、その研究は面白いので、広く発表してみませんかと声がかかることもある。
昔と違い、ブログやSNSなど研究成果を安価に公表できる場所は大量に存在する。ところがこういうことを調べましてまとめましたから、この長文をみなさん読んでくださいというのは、なかなか読まれにくい。文章が長くなれば長くなるほど、読んでくれる人は少ない。
あくまで個人的な感覚だが、研究の断片の中から、人が興味を持ちそうな部分を選び出し、短かく出力していくというのは良い手法だ。読むために10時間かかる長文よりも、10秒で読める断片のほうが、ずっと読まれやすい。読んでもらうために書くことで、多少の文章力の向上も期待できる。
形を変えて出力するというのも効果的で、私はかって明治大正の職業観について調べた結果を、絶版本のアンソロジーとして出版した。研究の結果を直接文章に書いてはいないが、文章の選択や並べ方で感覚的なものは十分に伝わると考えたからだ。
まとめ
以上は個人的な経験を元にして書いている。
私自身は人が知らべていないことに興味が向きやすいから、そういうことを調べている。オーソドックスな事柄を好む人が、無理矢理そういう分野に興味を向ける必要も意味もない。
また私はきっちりと手続を踏んで、公の場所に公開するというのも、苦手で嫌いだからしていない。そういうのを好む人は、そういう風にやったほうが良い。
素人研究というのは遊びなのだから、面白くないことはしないというのが一番重要だ。そういう意味では、冒頭で紹介した良いも悪いもなく、ひたすら外国語辞書を集め続けることに喜びを見出していた人は、素人研究の成功者なのだろう。
以下も同じようなテーマで書いた記事なので、一応紹介しておく。
暇つぶしや道楽の選び方 http://yamasitataihei.tumblr.com/post/23278067615
道楽や暇つぶしを公開するメリット http://yamasitataihei.tumblr.com/post/23281165299